個人事業主のふるさと納税|限度額の元になる所得と申告の進め方

確定申告書と電卓を並べて限度額を計算する様子

個人事業主でもふるさと納税は問題なく使えます。ただし、限度額の元になる数字が会社員とは違い、手続きの入り口も別です。この記事では、どの数字を見れば寄付額の見当がつくのか、青色申告特別控除で限度額がどう動くのか、申告のときに何をどう書くのかを順番に整理します。売上と所得を取り違えたまま寄付して自己負担が増える、という失敗を避けるための一本道です。

目次

個人事業主でもふるさと納税はできる

結論から書きます。個人事業主のふるさと納税は、所得税と住民税を納めている年であれば会社員と同じように使えます。制度上、寄付できる人を給与所得者に限る決まりはありません。返礼品を受け取り、自己負担2,000円を超える部分が所得税と住民税から差し引かれる、という基本の形も同じです。

違うのは、限度額を出すために見る数字と、控除を受けるための手続きの二点だけです。逆に言えば、この二点さえ押さえてしまえば迷うところはほとんどありません。

先に、向かない年のことも書いておきます。事業が赤字だった年、所得が小さくて住民税の所得割がほとんど発生しない年、前年からの純損失を繰り越して課税所得がゼロになる年は、差し引かれる税金そのものが少ないため、寄付しても自己負担だけが残ります。

赤字の年・課税所得がゼロになる年は、寄付額のほぼ全額が自己負担になります。

売上と経費を書き出した帳簿のページ

会社員と違うのは限度額の元になる数字

会社員は年末にもらう源泉徴収票を見れば、給与収入も所得も控除も一枚で分かります。個人事業主にはその一枚がありません。代わりの基準になるのが、確定申告書に書く所得の金額です。

ふるさと納税の限度額は、住民税の所得割額をもとに決まります。おおまかな形は「住民税所得割額の約2割+2,000円」です。住民税の所得割は課税所得のおよそ10%ですから、たどっていくと結局は課税所得、さらにその手前にある事業所得にたどりつきます。限度額を左右しているのは売上ではなく、そこから経費と各種控除を引いた後の金額です

元になるのは売上ではなく経費を引いた後の所得

ここを取り違えている人がいちばん多い箇所です。年収というと会社員は給与の額面を思い浮かべますが、個人事業主にとっての「年収」に当たるのは売上ではありません。ふるさと納税の話で使うべきは、必要経費を引いた後の事業所得です。

項目金額の例役割
売上(収入金額)1,000万円限度額の基準にはならない
必要経費600万円差し引く
差引金額400万円青色申告特別控除の前
青色申告特別控除65万円さらに差し引く
事業所得335万円ここが出発点

この335万円から、社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・基礎控除・扶養控除などを引いた残りが課税所得です。国民健康保険料と国民年金を年間で40万円台払っている人は珍しくありませんから、給与所得者に比べて所得控除が大きくなりやすく、その分だけ限度額も抑えめに出ます。

売上1,000万円を年収だと思って早見表を引くと、実態よりずっと大きい限度額が出てしまいます。早見表は給与収入を前提にした表なので、個人事業主はそのまま当てはめられません。使うなら、事業所得の金額を直接入力できる詳細シミュレーションのほうです。

青色申告特別控除の影響

青色申告特別控除は、事業所得を計算する段階で差し引かれます。つまり課税所得が減り、住民税の所得割も減り、その結果としてふるさと納税の限度額も下がります。

どのくらい下がるかを、所得税率10%の区分(課税所得195万円超330万円以下)で計算してみます。65万円の控除で課税所得が65万円減ると、住民税の所得割はその10%にあたる6万5,000円ほど減ります。限度額の目安は所得割額の2割を「90%−所得税率×1.021」で割った金額ですから、6万5,000円×20%÷0.7979で、おおよそ1万6,000円ほど限度額が下がる計算です。控除額が10万円のケースなら影響は2,500円程度にとどまります。

念のために書いておくと、これは青色申告特別控除を使わないほうが得だという話ではありません。65万円の控除で軽くなる税金のほうが、限度額が1万6,000円下がることより明らかに大きいからです。押さえておきたいのは、限度額は「青色申告特別控除を引いた後の所得」で計算するという一点だけです。控除前の数字で計算すると、限度額を1万円以上多く見積もることになります。

見当をつけられるのは所得が固まってから

会社員なら、月給がおおむね一定なので夏の時点でも年収の見通しが立ちます。個人事業主はそうはいきません。売上も経費も年末までは動きますし、12月にまとまった仕入れや設備投資をすれば所得は一気に変わります。

そこで現実的な進め方は、11月から12月にかけて帳簿をいったん締め、そこまでの売上と経費で年間の着地を見積もる方法です。会計ソフトを使っているなら、その時点の損益計算書を出せば差引金額まではすぐ分かります。あとは青色申告特別控除と、社会保険料の年間支払額を差し引けば、シミュレーターに入れる数字がそろいます。

前年と事業規模がほとんど変わらない見込みなら、前年の確定申告書の控えを使って先に仮計算しておく手もあります。5月から6月に届く住民税の課税決定通知書に載っている所得割額を見れば、前年ベースの限度額の目安はその場で出せます。ただしこれはあくまで前年の数字であって、今年の限度額そのものではありません。

寄付の判断は、年内の所得がおおよそ固まる11〜12月に回すのが安全です。

寄附金受領証明書とe-Tax入力画面のノートパソコン

ワンストップは使えない|確定申告で申告する

ワンストップ特例は「確定申告をする必要がない給与所得者等」で、かつ寄付先が1年間で5自治体以内の人が対象の制度です。個人事業主は事業所得の確定申告をしますから、この時点で対象から外れます。オンライン申請に対応した自治体が増えていますが、対象者の条件が変わるわけではありません。

仮に申請書を送ってしまっても、その後に確定申告をすればワンストップ特例の申請は無効になります。確定申告のほうで寄付金控除を書き忘れなければ、控除が二重に消えることはありません。逆に、申請書を出したから大丈夫と思い込んで申告書に書かないと、控除が丸ごと受けられなくなります。

手続き自体は、いつもの確定申告に数行足すだけです。

STEP
寄付の証明書をそろえる

自治体から届く「寄附金受領証明書」を集めます。楽天ふるさと納税やさとふるなどの特定事業者を使った場合は、そのポータルが年間分をまとめた「寄附金控除に関する証明書」を発行してくれます。1枚で全寄付分の証明になるので、自治体ごとの証明書を並べる手間が省けます。

STEP
申告書の寄附金控除欄に書く

確定申告書 第一表の「寄附金控除」欄と、第二表の「寄附金控除」欄に寄付先と金額を記入します。

STEP
住民税の欄を忘れずに埋める

第二表の「住民税に関する事項」にある「都道府県、市区町村への寄附(特例控除対象)」の欄に金額を入れます。ここが空欄だと住民税の控除が入りません。

STEP
証明書を添付または提示する

e-Taxなら、ポータルが発行する電子データ(xtxファイル)をそのまま取り込めます。紙で提出する場合は証明書を添付します。

正直なところ、この作業自体は10分もかかりません。面倒なのは証明書を年末までなくさずに保管しておくことのほうです。僕は寄付するたびにメールの控えを専用フォルダへ振り分けています。

申告書の書き方をもう少し細かく追いたい方は、ふるさと納税の確定申告のやり方で画面の順に沿って解説しています。

寄付は経費ではない|寄付金控除としての扱い

個人事業主から特に多い疑問がここです。答えは明確で、ふるさと納税の寄付金は事業の必要経費になりません。事業の売上を得るために直接必要な支出ではなく、個人としての寄付だからです。損益計算書には載りません。

では何になるかというと、確定申告書の所得控除のうち「寄附金控除」です。事業所得の計算が終わった後の段階で差し引かれます。事業用の口座やクレジットカードで支払った場合は、帳簿上は「事業主貸」として処理し、経費には入れません。プライベート用の口座で払ったなら、そもそも帳簿に載せる必要はありません。

節税ではなく「先払い+返礼品」

所得税では寄付金控除として所得から差し引かれ、住民税では基本分と特例分が税額から直接引かれます。合計すると、自己負担2,000円を除いた分が翌年6月からの住民税などで戻ってくる形です。支払う税金の総額が大きく減るわけではなく、納める先を自治体に移して返礼品を受け取る仕組みだと考えるほうが正確です。「節税になりますか」という問いへの答えは、厳密にはノーです。

所得が読めない年の進めかた

独立したばかりの年、大口の取引先が増えた年、逆に売上が急に落ちた年は、12月になっても着地が読めないことがあります。そういう年の進め方は二つです。

ひとつは、見積もりを低めに置くこと。限度額の計算に使う所得を、見込みより1〜2割低い数字で入れておきます。限度額を超えた部分は全額自己負担ですが、下回った分は「使い切れなかった」だけで損はしません。読めない年ほど、少なめに寄付するほうが失敗しません

もうひとつは、寄付を一度にまとめないこと。夏や秋に半分だけ寄付し、12月に所得の着地が見えてから残りを寄付する分け方です。人気の返礼品は年末に品切れすることもあるので、確実に欲しいものは早めに、調整用の寄付は12月に回すと収まりがよくなります。

年内に寄付として認められるのは12月31日までに決済が完了したものです。自治体や決済方法によって年内受付の締切が前倒しになる場合があるため、12月下旬の駆け込みは避けましょう。

入力する数字の作り方や、シミュレーターごとの入力欄の違いはシミュレーターの使い方で詳しく扱っています。

まとめ|所得が見えてから寄付額を決める

個人事業主のふるさと納税で押さえるのは、結局のところ三つです。限度額の基準は売上ではなく経費と青色申告特別控除を引いた後の所得であること、ワンストップ特例は使えず確定申告で申告すること、寄付金は経費ではなく寄付金控除として扱うこと。

順番としては、11〜12月に帳簿を締めて所得の見込みを出す、その数字で詳細シミュレーションを回す、少なめの金額で寄付する、翌年の確定申告で寄附金控除を書く。この四つを流れでこなせば、迷う場面はほとんど出てきません。

なお、この記事の計算例はあくまで目安です。実際の控除額は所得控除の内訳や家族構成で変わりますし、自治体によって細かい取り扱いが異なることもあります。金額を確定させたいときは、総務省のふるさと納税ポータルサイトや各ポータルの詳細シミュレーター、お住まいの自治体の窓口で確認してください。

ふるさと納税は個人事業主の経費にできますか?

できません。事業の必要経費ではなく、個人の寄付金控除として所得控除に計上します。事業用口座から支払った場合は帳簿上「事業主貸」で処理します。

限度額を調べるとき、確定申告書のどこを見ればいいですか?

前年ベースで見当をつけるなら、住民税の課税決定通知書に載っている「所得割額」がいちばん早いです。今年分を見積もるなら、確定申告書の事業所得の金額と、社会保険料控除などの所得控除の合計をシミュレーターに入力します。

事業所得のほかに給与所得もある場合はどうなりますか?

両方を合算した所得が限度額の基準になります。確定申告をする以上ワンストップ特例は使えないので、給与分もあわせて確定申告で寄附金控除を申告します。

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